X字長梢剪定

山梨県の勝沼で生まれたぶどうの剪定方法「X字長梢剪定」。生育が進むと文字通りXの形になっていきます。弊社では現在でもこの剪定方法を主体にブドウ栽培を行っております。簡単ではありますが紹介させていただきたいと思います。

マスカット・ベーリーA X字長梢剪定

ワイン用ブドウといえば垣根仕立てというイメージがあるかとは思いますが、弊社では昔ながらの方法を中心に栽培しています。高さが180㎝程の平棚という設備を用いて平面いっぱいに枝を配置します。また、垣根仕立てと比べて、樹の株数は圧倒的に少なく、大木となります。垣根は垂直方向に仕立てるのも大きな違いです。

整枝剪定とは?

剪定の目的は3つあります。ただ枝を切ればよいというわけではありません。

①収量調節。

②光バランスを均一にして、果実を均一に高品質にする。

③樹形を整える。

剪定は昨年、またはそれより以前に生育した枝を切ることです。枝数を減らすこととなるため、シーズン最初の収量調節となります。均一に枝を配置することで光が均一に果実や新梢へ当たることで、果実の成熟を促し、来年剪定に使う枝も充実したものとなります。そして、樹形を整えることで、根からの栄養供給をスムーズにして未来へと樹を永らえさせることができるのです。

私たちは単に「剪定」とは言わず、「整枝剪定」という言葉を使います。「整枝」とは枝や芽の向きを変えたり、切除したりすることで一本一本の枝の勢いを整えます。「剪定」は枝を切除することで樹の生育を調節します。つまり、「整枝剪定」は生育期間の作業と一体となり樹を整えて果実を成熟させ、さらに将来的にも安定してぶどうを生産することなのです。

X字長梢剪定の方法

文章だけで書いてもなかなか説明はわかりにくいのですが、簡単に説明させていただきます。まず、枝の切り方は2種類あります。

①間引き剪定

②切り返し剪定

間引き剪定とは枝を間引くことで、結果母枝(昨年生えた枝)を交互になるように配置して栄養の流れをスムーズにして樹の専有面積(樹冠)を広げることができます。片側だけに枝が偏ると反対側が枯れこみやすくなり、結果母枝どうしが近くにあるとそこに栄養が集中して他への供給が滞ってしまいます。新しく生えてくる新梢が込み合わないようにする目的もあります。

切り返し剪定とは枝を切り戻すことで、樹勢が弱ってしまった樹に活力を取り戻させます。根の量と枝の量のバランスT/R比(Top/Root)を整えます。

どんな理論で剪定を進めるか?

X字長梢剪定では以下の植物生理を利用します。

①パイプモデル理論:樹を「一本一本に葉が付いたストローが束になったもの」というモデルで捉えます。葉が蒸散することで新梢生育が活発になります。芽の数・枝の数が多くなればそれだけ栄養分を引っ張ることができ生育が盛んになり樹勢が強くなります。

②頂芽優勢:植物は先端の生育が盛んで、オーキシンという植物ホルモンを出し、先端より下の芽のサイトカイニンの合成を阻害して、発芽を抑えています。

③基部優勢:枝の付け根の芽は根に近いため強くなりやすいという性質をぶどうは持っています。

④交互に枝を配置することで栄養の流れをスムーズにする。

簡単に言うと、上記4つの植物生理を利用して剪定を進めます。植物生理をよく理解し、向き合っている樹や枝・芽の状態を見極め、なぜそこで枝を切るのか常に説明できなくてはなりません。

X字長梢剪定の利点

この剪定の利点は、理論上どんなぶどう品種であっても樹勢をコントロールして安定して育てることができることです。もともと、発芽しにくく樹勢が強い「甲州ぶどう」のために土屋長男氏によって考案されました。ぶどうの植物生理がよく考慮された剪定方法です。また、平棚は地面から果実や新梢の距離が離れているため、生育期の土壌湿度が高い日本では病害や雑草を避けることができます。ただし、近年はそれ以上に梅雨等の湿度は高いのが現状ですが。垣根栽培の方がワイン用ぶどうの栽培に向いているのか、平棚の方が土地に合っているのか、それは今でも議論され、弊社も高品質ぶどうを生産するために常に研究しています。

甲州 X字長梢剪定

(写真はX字長梢剪定の甲州種)

色々な議論はありますが、X字長梢剪定の理論に沿って剪定された樹を見ると美しいと感じます。

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